節分を過ぎても、まだまだ寒い日が続きます。でも、枯木の枝先には新芽が見え始めました。梅の花もほころび、春が近づく気配を感じる2月初旬の日曜日、杉並区にあるY邸をお訪ねしました。
1階がご両親宅、2階が賃貸マンション、3階が今回お話を伺ったYさんご夫妻のお宅となる、二世帯住宅に賃貸マンションを併設したY邸をご紹介します。
ご夫妻が結婚されたのは5年前の2000年、これを機に奥様のご両親と暮らす家創りのプランが生まれました。「私達はすぐにでも家が欲しかったのですが、 両親はゆっくり、じっくりと考えていました。そこで、二人で家を購入することも考え、1年かけて建売からマンションまで、数え切れないほどたくさんの物件を見て回りました。」 と奥様。「でも、納得のいく物件は見つかりませんでした。」とご主人。
そんな時、長年のテニス仲間である今泉さん(お宅訪問レポートNo.7)が、ご自身で設計した自宅を建てたことを耳にします。 「ちょっと話を聞いてみることに・・・それまで今泉さんが一級建築士であることを知りませんでしたし、この時は本当に設計をお願いするとは思いませんでした。」と、 当時を振り返るご夫妻。ある日ご両親とドライブ中に、今泉邸の近くを通りかかり見学することに・・・「総タイル張りの外観、そしてナチュラル素材で仕上げたシンプルな内装、 すっきりと広い間取りがとっても気に入りました。」
これがきっかけとなり、ご自分達の希望をかなえる家創りが始まったのは、2002年後半のことでした。 「今泉さんの存在は大きかった、今泉さんがいなかったら、この計画は実現しなかった。」と、今改めておっしゃるお二人です。
「建物自体は100年保ちます。変化していく家族構成を考え、先を見据えて設計しました。外観は強固なマンションですが、内部は一軒家としての視点で創りました。」 この日偶然Y邸でお会いした今泉さんの言葉です。
Yさん一家がまず念頭に置いたのが、強固で健康を維持する構造の建物です。「厚めに打ったコンクリートはもとより、柱や梁も通常より太く頑丈にし、耐震構造を意識しました。」 とご主人。また、外壁の総タイル張りは、デザインはもとより、全体を保護し建物を傷めないための配慮です。賃貸部分も自宅と同様に天井高で、トイレから浴室に至るまで全ての 部屋に窓を設け、風通しを良くしています。さらに24時間換気システムも導入して、湿気対策をしています。「家は賃貸部分から傷むこともあるので、その辺を考慮しました。入居 者の方も快適に暮らしていただけます。」とご主人はおっしゃいます。
お二人のライフスタイルを大切にした、広々としたスペースの間取りは、将来家族が増えた時に仕切れるように、サッシ・照明・収納まで計算された設計を実現しています。
結婚当初からここに移るまではご主人の実家にお住まいだったご夫妻。「家創りにかける時間はタップリとありました。充分な準備期間を持てたことが満足の行く結果につながりました。 」とご主人。「モデルハウスはもちろん、キッチン設備から照明、取っ手にいたるまで、100回は下らないほど何度もショールームを訪れました。集めたカタログもダンボール4~5箱は あります。全て、自分達の目で確かめて決めていきました。」と奥様。「照明も一つ一つ比べてみると、色や明るさが異なります。タイルは、晴れ・曇り・雨の日では色が変化します。 100年持つ家ですから、納得のいくよう、細かい部分までこだわりたかった。」とおっしゃるお二人は、勉強を重ね、アイデアを今泉さんに相談ながら、プランニングを進めていきます。
当初は二世帯だけの予定でしたが、家族で思案する過程でスペースが生まれたため、賃貸マンション併設に計画を変更しています。 車椅子でも生活できるバリアフリーが可能な1階はご両親宅、光がたっぷり入る明るい3階はYさん宅、そして2階が賃貸部分になりました。
2年の歳月と労力を費やし、最終的なプランが完成したのは2004年のこと、お二人の家創りにかけた努力が窺えます。
今泉さんの紹介で丸二と出会ったご夫妻。長年かけてプランを進行してきたので、当然数社から見積りをもらっていました。「一番良心的な見積りを出してくれ たのが丸二さんでした。そして、実際の建築現場を見るにつけ、仕事がしっかり している印象を受けました。」との理由から、丸二に施工を依頼することになりました。丸二の施工物件は可能な範囲で足を運び、ご自分達の目で確かめています。 また、「いろいろな企画を取り上げ、家創りを紹介しているホームページや「ありがとう通信」からも、アフターサービスなど多くの情報が得られ、キチンと誠実に家を建て ている姿勢が窺えました。」と嬉しい言葉をいただきました。
2004年3月に工事着工となります。建物が密集しバス通りに面した場所での工事は、「大掛かりな基礎工事などは、見ていても大変さが伝わってきました。」 とご主人がおっしゃる程・・・でもここ近辺での工事も数多くこなしてきた丸二は、近隣からのクレームもなく、工事は順調に進行していきます。
ご夫妻も、現場に度々足を運びました。「工事から完成まで、撮った写真は3000枚近くになります。この過程は1度しか経験できませんから記念にしたかった。」 と奥様。「現場監督を始め、大工さん、電気屋さんまで、親身になって話しを聞いてくれました。迷ったり、困ったりした時に専門的なアドバイスを貰いました。」 とご主人。工事途中で設けることになった1階床下収納室の換気設備は、建物の健康維持を考慮した丸二からの提案でした。
「私達は、本当に注文が多かったと思います。夜中の1時まで、丸二さんの会議室で話し合ったこともありました。そんな時でも辛抱強く、快くお付合いくださいました。」と当時を振り返る奥様の言葉です。 「細かく希望を聞き、その通りに仕上げてくれました。丸二さんでなければ、ここまで自分達の希望を反映させてくれることはできなかったと思います。感謝しています。」 とおっしゃるのはご主人です。
工事は予定通り進行し、2004年10月竣工、12月入居となりました。
午前10時のY邸リビングは、陽が注ぎ込み、温かく柔らかな空気で包まれています。広々とした天井高のスペースは、淡いトーンの色調でコーディネイトされ、殊更な開放感を 生んでいます。
こんな第一印象を受けるY邸をご紹介します。24畳のリビングダイニング、8畳寝室、8畳書斎、浴室・洗面室、出窓のあるトイレの間取りに、各部屋にベランダを設けた、 建物が密集した場所に建っていることを忘れてしまう、戸建て感覚のお住まいです。
高校の先輩と後輩でもあるご夫妻には、ここ地元周辺に共通の友人がたくさんいます。そんな友人達も集まれる場所へのこだわりから、対面式キッチンのダイニングとリビン グが一体となった広いスペースが生まれました。南側は2面のサッシと大きな出窓、西側の壁も一部ガラスにして、外の風景を取り込みます。
特注の建具はシナ材、カウンター天板はメイプルのナチュラル素材で統一し、床材は幅広で明るい色を選択することで、広さを意識した美しいインテリアが実現しています。 「明るく、広く見える間取りと、内装にこだわりました。それと二人とも身長が高いので、天井、キッチン、洗面台は通常よりも高くしてもらいました。」と奥様。
ご主人がこだわったのは、家の動線です。浴室・洗面室・キッチン・寝室は一直線につながり、最短距離で移動できます。トイレ以外は扉も全て引き戸にして、 暮らし易さを追求しています。そして「収納を多くして家具をなくし、スッキリとシンプルに住むことを望みました。工事途中で見つけたデッドスペースは、どんな場所でも 収納にしてもらいました。」と奥様がおっしゃるたくさんの収納スペースには感嘆します。また、書斎の天井はコンクリートの打ち放しになっていますが、これはデザインの アクセントだけではなく、家全体のコンクリートの経過状態を見る目的があります。デザイン・機能面共に様々な工夫を凝らし、こだわりを形にしたY邸には、人にも建物にも 優しく快適な時間が流れ始めました。
「家から出たくなくなってしまうほど気にいっています。」とご夫妻の感想です。
取材途中にたまたまY邸に来られた今泉さんに、「友達にも評判良いよ。」と伝える奥様。今泉さんも、 「これだけ喜んでいただけると設計者冥利に尽きます。家は大切に住んでこそ生かされてきますから、僕も嬉しいです。これからも手間ヒマかけた家創りをしていきます。」 とおっしゃいます。本当に心から楽しそうに家を紹介し、案内してくださったYさんご夫妻。最後にこんな言葉を残してくれました。
「もし、また家を建てる機会があれば、自分で壁を塗ったりしながら手創りの家を創ってみたい。その時はまた、丸二さんと今泉さんのコンビにお願いしたい・・・と言うか、 このコンビでなければできないと思います。」と。