初夏を迎えた土曜日の昼下り、ここ砧では落ち着いた雰囲気のレストランでランチを楽しむご夫婦の姿が目立ちます。この町の一画に、優雅に佇むコーポラティブハウス「K」があります。
表情豊かな外観に加え、住居部分の区画割がとっても個性的な「K」。地下と1階のメゾネットが5戸、2階にフラットが2戸、2階3階のメゾネットが1戸、3階にフラットが2戸、4階にフラットが1戸、4階5階のメゾネットが2戸の計13戸という凝った造りになってい ます。
今回は、前回に引続き、「K」にある岸さんのお宅をご紹介します。1階と地下を使ったメゾネットの岸邸。1階のオレンジ色の扉が入口です。岸さんご夫妻とボーダーコリーの愛犬プリンちゃんが出迎えてくれました。
お二人そろってフリーのスポーツライターでいらっしゃる岸さんご夫妻。ここ砧に住んで12年が経ちます。住環境の整った暮らしやすい砧、この周辺で家探しを開始したのは3~4年前のことです。しかし、既存の分譲マンションの設計仕様に満足できず、また予算面でも納得がいきません。「分譲マンションはイヤというほど見て、うんざりしていました。また、フリーの仕事というだけで、資金の借入れがまだまだ難しいのが現実でした。」とマイホームの夢をあきらめかけていた岸さんご夫妻。
ある日、砧コーポラティブハウスの募集広告に目を留め、その日の内に設計監理を担当した(株)ケイ・吉嶋プロジェクトパーティの事務所を訪ねた奥様。「それまでのリサーチから、まず価格の安さを実感、自分達で好きな設計ができる、これはいいなと思いました。」と当時を振り返ります。翌日には再びお二人で事務所を訪れ、詳しい説明を受け、その場で申込みをされました。「今まで難しかった資金面も、すばる企画のコーディネーターが対応してくださり、クリアとなりました。自分達で創っていくコーポラティブはすごく面白いと感じました。家を買うと決めた翌日にはもう申込みをしていました。」とご主人。平成14年1月から、岸さんご夫妻はあきらめかけた家創りを再開することとなります。
「家創りのプロセスはすごく楽しかった。もっとやりたかった。」とおっしゃる奥様。すでに結成されていた組合への参加は途中からでしたが、食事会やお茶会で組合員の方とも親しくなり、総会も楽しむことができました。「組合参加者がどういう方か分かってくると、自然と話もはずみます。総会はお互いの情報交換の場にもなりました。」とご主人はおっしゃいます。
「K」の外壁や共用部分は、設計担当の(株)ケイ・吉嶋プロジェクトバーディーが提案、それに対して総会で承認する形で進み、取り決めに関する苦労はなかったとおっしゃいます。「ここの進行に関しては、組合員、設計事務所、建設会社と、横のつながりはとても上手くいったと思います。コーディネーターの配慮が行き届いていました。彼らの力は大きかったです。」とご主人のお言葉です。また、総会では建築のプロの立場から意見、質問をしてくださった岩瀬さんを始め、組合員の力にも助けられました。一昨年1月の総会参加から、岸さんの家創りは急速に進行していきます。
ご自宅の内装は奥様が担当。「知識ゼロからのスタートでした。設計の方に希望のイメージを伝え、具体的な提案を出しもらいました。」設計事務所を訪れると半日はそこに居たとおっしゃる奥様。「色々なことをしたいが、予算や時間も限られている。その中で取り決めをして行く作業は、正直言って僕には面倒で大変なことでした。でも彼女が楽しそうにやってくれたので助かりました。」とは、ご主人の正直な感想です。
「設計の方と話合って行くうちに、こちらの知識も膨らんできます。いろんなことが判ってきた今、もう一度家創りのプロセスをやりたい。今思えば、もっと楽しめたはずです。」とおっしゃる奥様です。
地鎮祭には組合員全員で参加。近所の方にもお菓子を持って挨拶に伺いました。「このような知識はなかったので、ここまで配慮された企画に感心しました。大掛かりな工事でご近所には迷惑がかかったと思います。挨拶まわりをするのとしないのではかなり印象が違うはずです。」と岸さんご夫妻はおっしゃいます。
実際に基礎工事が始まると状況を見に現場を何度か訪れます。「欠陥住宅が騒がれる昨今、基礎工事は特に気になりました。現場状況を把握しておくと、素人ながら総会で気になる点が質問できます。また、丸二サイドもこちらの疑問点に良く応えてくれ、不安はなくなりました。」とご主人。岸さんご夫妻が組合に参加した時点で、建設会社は丸二に決まっていました。「大手ゼネコンになると、痒い所に手が届かなくなる不安がありました。地場で地道に活動してきた会社と聞き、また、総会でもこちらの言うことをよく聞いてくれる対応に安心感を持ちました。」と丸二への印象です。また奥様は、「パンフレットからコーポラティブに対する姿勢が伝わりました。こんな面倒な建設を推進し、実績がある会社だから良いのではと思いました。」と。
一昨年5月着工となった工事は順調に進み、「K」は昨年6月竣工となりました。「最近の分譲マンションを見ていると、種を植えたら芽が出てという様に、あっという間にできあがってしまう。ここは、逆に時間をかけ、丁寧に造られ、安心しました。」と岸さんご夫妻はおっしゃいます。
竣工後1年経ったこの7月には、丸二の1年点検があります。「住んでみると、何かと問題はあるものです。建物全体では、ディスポーザーの集結部分から音や匂いが出たり、自宅では建具の取りつけ部分に不具合があったりと・・・その都度丸二さんに連絡して直してもらいました。ずっと同じ方が来て担当者の顔が見えていた、その点が良かったですね。」とご主人。これからも「K」と丸二のお付き合いは続きます。
岸邸をご紹介します。
玄関を入ると洗練された空間が広がります。1階はリビングと独立したキッチンスペース、そして2畳はある納戸です。打ち放しのコンクリートとふんだんに使われたガラスブロックがモダンな雰囲気を、ポイントになる木の建具が寛ぎ感を醸し出しています。 "欧米人が考える東アジアの家" を表現したかったとおっしゃる奥様。洗練さと温もりが共存するリビングスペースが生まれました。李朝の家具や、何気なく置かれた小物が演出するインテリアに、奥様の想いが上手く表現されています。
「生活感のある物は全て見えないようにしたいとお願いしました。私は本来がなまけもの・・・散らかる部分は隠して、簡単にいつも片付くようにしておきたかったので、大きな収納は役立っています。」と奥様。そして、背の高いお二人に合った高めの天井が、部屋を広く見せています。「以前のマンションでは入口や鴨居に頭をぶつけることもありましたが、ここでは安心して動けます。」とご主人。1階から地下に降りる階段スペースは吹き抜けにして、曇りガラスで仕切り、リビングに灯りが伝わる凝った造りです。「ここは収納も造れるスペースですが、あえてゆとりを持たせました。どこもキチキチな造りだと疲れるかも・・・」と奥様。地下は書斎とベッドルーム、浴室、そして広い広いテラスコートです。各部屋共、風の通りもよく、テラスコートからの光で地下とは思えない明るさです。「ここは1年を通じて温度が一定で、夏は涼しいです。また、静かですし、外の気配も気にならず、仕事がはかどります。最初は心配していた地下ですが、住んでみると思いのほか快適です。」とおっしゃいます。岸邸は、遊び心のあるゆとりのスペースと、実用性を兼ね備えた合理的な設計・仕様で、心地良い住空間を実現しています。
「 "何度も家を造る段階を見に来るので、入居した時から長く住んだ家のような気がするのがコーポラティブです" と設計の方に言われましたが、その通りでした。」と入居当初の感想を述べられた奥様。形的には希望が叶い満足していますが、素材はもっとグレードアップさせたかったとの思いも残ります。「勉強して、自分の知識を持って設計の方と話しをすることをお勧めします。スムーズにいきますし、なにより家創りを楽しむことができます。」と家創りのアドバイスをいただきました。「迷ったら、思いきって決断する事も大切。後からでは変えられません。大胆にやっていかないと以外に普通になってしまいます。」とご主人はおっしゃいます。
住んで1年が経ちました。「なによりも実感しているのが、ここでの皆さんとの楽しいお付合いです。」と声をそろえておっしゃる岸さんご夫妻。総会を何度も重ねて、皆が仲良くしてきた賜物です。13戸全ての家族全員が顔見知りです。「 "醤油貸してくれる" と言えるほど仲良し。以前は一人が当たり前と思っていた都会での生活、でもこのような近所付合いをはじめてみると、安心感はあるし、楽しいし、今の方が楽ですよ。」とご主人。「物音ひとつでも、知っていると感じ方が変わり、気にならなくなります。」と奥様。
特に地下のテラスコートでつながった3軒は大の仲良し。仕切りのために設けられたプランターを素通りできる位置に移動して、皆で飲み会やバーベキューをして楽しむ場所に解放しています。明日の日曜日は他の階の方にも声をかけ、「K」全体で流しソーメンの会を開きます。「コーポラティブに申込んだ当初の一番の魅力は自由設計でしたが、暮らしてみると、このコミュニケーションの良さが一番です。」と岸さんご夫妻の実感のこもった言葉です。
ここ「K」は、何事も話合いで決めて行きます。現在管理を委託している管理会社は、コーディネーターに何社かピックアップしてもらい全員で選びました。「K」の館名も、住所を書くときに簡単、海外からの手紙も届き易い名前が良いなどと意見を出し合い、組合員で候補をあげた中から決めたものです。
「ペットやピアノなどの規約、何でも住人で決められるのが良いですよね。」と奥様。「駐車場の金額も、周辺の相場と比較することなく決めることもできます。」とご主人。何かあるとまず理事会にかけて解決、改善されない場合は再度総会で話合ってきました。今でも総会は年に一度開かれます。親しいからこそ、気になることもお互いに進言できます。入居者全員がいつも快適に暮らしていくコミュニケーションのとれた環境は、住人自らが生みだしています。
地下を見学中、「レイチンいる?」とお隣の方に声をかけられた奥様。愛犬プリンちゃんがテラスコートに出るため、お隣で飼っている猫への気づかいです。何気ない言葉のやり取りにも、普段の親密なお付合いが感じられました。公共部分の撮影時に出会った住人の方も、私たちに快い挨拶をくださり、「K」の居心地の良さを実感する取材となりました。