interview お客様インタビュー

まちをつくる建築

コーポラティブハウス
宝来屋本店
  • 工法 RC造
  • SRC10階建てコーポラティブハウス
  • 東京都千代田区九段南
  • 敷地面積:264.43㎡
  • 延床面積:1942.52㎡
  • 建築面積:209.40㎡
  • 21戸

創業明治元年 宝来屋本店

今回お話をお伺いしたのは、創業明治元年(1868年)九段に130年という歴史を持つ和菓子屋さん、「宝来屋本店」5代目若旦那の大井岳人さん。
この地に生まれ育ち、町の変遷と人情模様を肌で感じてこられ、昨今の乏しくなりつつある地域・コミュニティのあり方を考える中、コーポラティブハウスという手法で、集合住宅のあり方・地域づくりに新しい風を送り込み、昔ながらの温かい絆をつなぐ活動をされています。
そして生まれた繋がりが地域に広がり、新しくコーポラティブハウスの建設が着手されるにまで至っています。

「季節」をお届けする上生菓子

伝統の生菓子

昔この地は「麹町区」と言われ、その地名の入った木の万重は今でも使われ続けています。

お菓子をケースに陳列する様子

街の開発のあり方

コーポラティブという方式で建替えされた経緯をお聞かせください

もともとは木造の店舗で、水道管・ガス管・工場の衛生面など、補修しながらやるのにも限界がありましたので、建て直しはずっと考えていました。
開発をしませんかと言う話も時々あり、その都度考えるんですが、ずっと住んで来た街にオフィスビルがどんどん建って、住んでいた人達がどんどんいなくなって、そういう開発のされ方は街としてどうなのかと疑問に思っていたんです。

ワンルームマンションがどんどん建ち出し、確かにそれで人は外から入ってくるかもしれないけど、地域のコミュニティ、人のつながりは住んでいても他人に関心がない。行事なども手伝ってくれないとか、そういう建て方では街はどうなってしまうんだろうかと。
そう感じている中、建てる前に住む人を募集してできた時にはコミュニティが出来上がる「コーポラティブハウス」という建て方があることを知り、これだと思い建替えを決断しました。

コーポラティブという建て方

どんなことが心配でしたか?

住む人がちゃんと集まるのかっていう不安はありました。コーディネートしてくれた「としまち研」さんは、神田はよく知っているだろうけど九段は大丈夫なのかなと。でも、スケージュールも段取りも全部組んでサポートしてくれましたし、安心して任せられましたので、私たちが苦労したことは特にないと言ってもいいくらいです。たまたま通りかかってチラシを見た方だったり知り合いの方だったり、地元の人の応募が多かったのは嬉しかったですね。

どうやって施工会社を決めましたか?

まずは、大きなゼネコン、中規模、小さい所、建設会社をピックアップして見積もりをお願いしました。こういうのを建てるので見積ってくださいとプランを出すんですけど、最初からこういう面倒くさいのはやりませんという建設会社さんもありました。全戸違う内装で、オーダーメイドですから一戸建てを建てるのと変わりないですからね。
その流れの中で、対応もよくコーポラティブハウスの実績も多々ある丸二さんに決めました。現場監督の林さんとはよく話をしましたし、皆さん良い方でよかったですね。今でも時々補修を頼みますが、すぐきて直してくれますし、電話しやすく頼みやすいですね。

家づくりはどうでしたか?

内装を自由にやれるって言うのは確かにコーポラティブハウスの魅力の一つです。自宅はそこまで高い部材を使った訳ではありませんが、いろいろわがままを言ってつくりました。出来上がった時のことを想像して。やっててすごく楽しかった。なので出来上がるのを見た時に逆にちょっと寂しかったくらいです(笑)。みなさんも満足していると聞きます。

マンション名はどうやって決めましたか?

出来上がる前からそこに住む人達が建設組合をつくるんですが、そこで相談して建物の名前を決めました。名前だけではなく、共用部分をどうしようかとか、いろいろ話し合いながら決めていきました。
そして、何回も集まっているうちに自然と皆親しくなり、一緒につくっている一体感を感じますし、出来上がった瞬間はすごく盛り上がりました。今でも定期的に集まっていますし、皆さん町会の行事などにも積極的に参加してくれます。

集合住宅として取り組まれていることはありますか?

普通ですが皆さんのことを気にすることです。東日本大震災の時も、エレベーターも止まってしまい、住んでいる人が無事かどうか、安全かどうか確かめました。当日お家にいらっしゃらなかった方も、後でメーリングリストをつかって安否を確認できました。
エレベーターもその日のうちに動くようになりましたし、丸二の林さんも心配して来てくれました。皆が皆を心配したり気をかけ合うということは、そんなに特別なことではなくて、ごく普通のことのはずなんですよね。

集いの場

「お店に関して言うと、以前からお茶を飲めるスペースはありますかと訪ねられることが多かったのですし、お客様が集えるような場所がつくりたかったんです。」

2F休憩スペース

「最近はだんだん寒くなったせいか中で食べられるお客様も増えてきましたし、近くにある幼稚園の送り迎えの際、お母様方などにも団体でよくご利用頂いております。」

コミュニケーション、地域という受け皿

近くに住むお客さんAさんとお話をする大井さん。Aさんは福島在住でしたが、放射能の件でご主人を地元に残し、お子さん二人と九段で避難生活を送られています。知らない地で制約の多い避難生活。下のお子さんがまだ小さく、なかなかお店には来られませんが、町会のお餅つきやバスツアーなどのイベントにも参加され、少しずつ地域になじまれているようです。

コーポラティブハウスの連鎖

地域ではどんなイベントがありますか?

今月も町会で八景島にバス旅行に行くんですけど、40人定員のうち10人うちのマンションからの参加なんです。若い夫婦の方も積極的に参加してくれ、お祭りなんかも盛上げていきたいですね。でも住んでいる人達が良い人達だから本当に良かった。こういう人付き合いに理解があって好きな人たちが、コーポラティブハウスに入ってくるんでしょうね。何回か会ってちょっと違うなという人はきっと入らないでしょうから。

町会での評判はどうですか?

最初から入る人達が決まっていて、コミュニティができて、施主としてもリスクが少ない、こんな素晴らしいことはないなと思います。町会の仲間ともいろいろ話をしますし、皆さんがイベントに参加してくれることでマンションのことも知ってもらえるようになりました。一緒になってワイワイガヤガヤやっているうちに良い雰囲気ができ良い場ができました。

近くに新しくコーポラティブハウスができるんですか?

はい、そろそろ応募が開始されると思います。町会としては良い人たちに住んでもらいたいし、町のことをやってくれる人に住んでもらいたい。そういう流れからコーポラティブハウスがもたらす地域への影響を肌で感じたのではないでしょうか。
隣に誰が住んでいるのか知っている、挨拶したり話ができる普通のコミュニティ。ビジネスだけでは終わらない、みんなが喜ぶのがコーポラティブハウスの良い所ですね。

現場監督:林所長

ここからは施工を管理された丸二の林所長にお話を伺います

コーポラティブハウスははじめて担当しましたが、入居された方々のまとまりりには共感しますね。建築のコンセプトに集っているのではなく、皆さん九段という街が大好き。街にどういうお返しをしたら良いか考える人が集っていて、素晴らしいコミュニティです。
私もこの仕事で2年間九段にいましたが、本当に九段に住みたくなりました。

施工の際、何を一番考えますか?

そこに住んで生活する人がいることです。生活が始まってから困らない様にいかに配慮できるか。人を含めての建物なので、そう考えないと建物は絶対良くなりません。
自分が建てた建物は、そんな思い入れもあり、心配ですし可愛い。我が子に完成した建物を見てもらえるのが本当に嬉しいです。

現場での逸話

全戸自由設計の内装

コーポラティブハウスはビルの中に自分の住宅を持つようなもの。一戸一戸フルオーダーで、全部屋違うのはほんとに大変です。
工期が迫ってくると、どの部屋がどうか混乱しますし、Aの部屋の話がいつの間にかBの部屋のことになっていたり…。ですのでミスが起こらない様に、部屋の特長なんかで意思疎通をする工夫をするんです。

狭小地での施工

敷地が狭く作業が大変でした。足場を組めず、クレーンを建てる場所もないので、荷揚げはエレベーター。他階で使用中の時は待つしかないので、非常に作業効率が悪く…なかなか工程表の調整に苦労しました。

看板のバックライト

コンクリート壁面にライトが埋め込んであります。ロゴの通り正確な作業が求められますが、後から直すことはできませんので一発勝負です。

吹き抜けと重量制限

建物の下に地下鉄が通っており、重量制限がありました。店舗の吹き抜けは雰囲気づくりだけではなく、全体の重量面からも考慮されています。

伝統への配慮

歴史の重さを感じて

明治元年から続く歴史と、コーポラティブハウスという新しい住まいのカタチが違和感なく融合できるかどうか、コーディネーターの方も特に気を使っていました。

代々受け継がれる看板

昔から使われ続けている机

営業・製造と工事

施工中の営業

 近くの駐車場に仮の工場としてプレハブを建て、そこでお菓子を製造できるようにしました。
 営業・販売は、近くにある代表のお住まいの一部を改装して続けられ、その仮店舗は今でもそのまま残っています。

工場内は非常に重たい釜や冷蔵庫などが並ぶ

手作業で並べられる焼き菓子

ファサードの物語

息づかいのあるペアガラス

このペアガラス、中が透けて見えることはありませんが、何となくシルエットや光の動きが認識でき、風景が乱れないだけではなく、住んでいる息づかいが街並として感じられます。そこがグッドデザイン賞としても評価された点です。

北向きのファサード

はじめは南向きで計画が進んでいたそうですが、隣りのビルの上から眺めた靖国神社とそのまわりの自然の素晴らしさに計画は一転、北向きに変更されたそうです。実は北向きの方が逆光にならず、景色がキレイに目に入って来るんですよ。