今回訪れたのは、建築デザイナー-山崎裕之さんのお宅。建物の雰囲気や造りはもちろん、建築の永遠のテーマである「風と光」の取り入れ方、そして、設計のプロだからこそ生まれる家づくりのアイディアには、目を見張るものがあります。
また、同氏はアリゾナ(米国)にて、砂漠の中につくられた都市「アーコサンティ」の建設プロジェクトに、設計士として参加した経緯を持ち、日本人離れした「コミュニティ設計」という壮大な観点から建築を考えられています。
今回の建てられたご自宅も、単に物理的な建物としてではなく、「地域とのつながり」も設計されており、「建築とコミュニティ」のあり方を考えさせられます。
30年前、山崎氏が描いたアーコサンティの図面
アーコサンティ
アーコサンティ
山崎氏:「コーポラティブハウスは共同住宅でありながら、各戸全部設計が違いますから非常に手間がかかります。自由設計ですが、共同プロジェクトなので守るべき期限があります。そのため時間のない中でたくさんのことを決めなければならず、入居者の方皆さん非常に悩まれていました。でも、完成してからその過程が楽しかったというお声が多いのも事実で、それだけできたものに満足しているということなんでしょう。」
山崎氏:「建設中に変更も多々ありますが、その都度嫌な顔せず見積もりを出してくれることには感心しますね。その点で、設計として信頼がおけますし、施主側としても安心感があります。」
丸二の鈴木専務:「山崎先生は、変更や違った要望があった場合でも、はじめから無理とは言わず、小さい所までちゃんと誠意を持って考えてくれる。」
このプロジェクトを進める中、お互いの仕事に対する姿勢など、無意識に共感する部分が、信頼関係を築くきっかけとなりました。
山崎氏設計、丸二施工のコーポラティブハウス「緑桜館」
「丸二さんとは、以前から仕事での付き合いの中で、気心が知れていたと言うのもありますが、現場の監督さんにいい方が多いんですよ。非常にざっくばらんで人がいいなっていう印象があります。私も設計と言う立場から、たくさん工務店さんの仕事を見てきましたが、現場監督さんの対応が悪ければ、いくら大ゼネコンで社会的な信頼があっても、それは良くない。現場監督さんがいかに対応してくれるか、資質・人間性は仕事を進める上で重要な要素だと考えてますので、その点信頼の置ける丸二さんに今回お願いしました。
「材料的になるべく無垢のものを使って家を建てたかったのと、ぺたぺた張っていくというつくりかたをしたくなかった。だから外壁もうちっぱなしで、中の壁もコンクリートブロックの無垢。コンクリートで行くのは始めから決めていましたし、丸二さんのコンクリートのグレードがいいのはよくわかっていましたので、それも施工を依頼するに至った決め手の一つですね。」
ホームセンターで売っているものと何ら変わりないものですね。これを積むのに、丸二さんもかなり苦労したと思います。本来は見えない部分に使われるものなので、精度が悪いんです。そもそもかけてもいいものですからすぐかけてしまうんですが、かけずに綺麗にやってくれました。さらにそこに穴をあけて電気を通して…なんて普通やらないですね。それをここまで丸二さんは対応よくやってくれました。
「この寝室の扉もブロックを積み上げてつくっているんですが、実はコンクリートブロックと建具の取り合いが非常に難しいんです。逃げがきかない。ドアとの隙間なんか細く綺麗にやってくれましたね。」
「光、風、緑、土...自然をいかに取り入れるかというのは、平然たる建築のテーマなんです。その中でも特に重要なのが「光と風」。どうやって建物に入ってくるか、あるいは時間によってどう変化していくか。建売りではほとんどそれらは考えられていませんし、小さい敷地の中でもこれだけ出来るということを具現化したかったんです。」
「ここは中庭で、小さい敷地の中に、無理をしてとりました。思った以上に光が入りますし、上昇気流が起きて風も抜け、とても快適です。
上から雨も入ってきますし『家の中だけど外』、中か外かわからない部分。そういう意味でリビングも、一面ガラスで、中か外かわからない。そんな矛盾を含んだ空間の設計です。」
「そうです。割れませんから大丈夫ですよ(笑)。ガラスの床にすることでかなり下まで光が落ちます。いいフローリングでやるのに比べるとコストも全然安いです。確かに下が見える怖さはあるかもしれませんが、間に紙を挟んだり、工夫の余地はありますし、これで生活の中に光が溢れますから。
ふんだんに注ぎ込まれる光
「ここは光の反射を利用しています。床を白くしたんですが、そこにあたる光の反射で部屋が明るくなるんです。でも丸二の現場監督さんは悩んでいましたね。本当に白ですかと。やはり白い床は汚れが目立つのでクレームの対象になります。だから私も人の家を設計するときは白い床にしません。でも床を白くしただけでこれだけ直射日光が入ってくるんだと、解っていながら嬉しい期待はずれでした。手間いらずのフリーメンテナンスといわれていますが、汚れないということではありませんし、汚くなれば掃除をすればいいだけのことですから。」
「ピンホールっていうんですが、コンクリートに小さな穴が開いているんです。通常施工者としては埋めたい所ですが、星みたいでキレイですしそのまま残してもらいました。」
「今は自分の書斎のような感じで使っていますが、将来的には貸してもいいし、店舗にしてもいいかなと。奥の部屋は物置になっていますが、後々キッチンやバス・トイレを付けられるように、配管だけはしてあるんです。」
壁面に飾られるアーティスティックな写真、これも山崎氏によるもの
既存のブロックを使った壁や、規定にとらわれない窓の取り方など、規格に沿った中でも輝くオリジナリティ。その創造性をもって建てられた山崎氏のご自宅には、スペースを有効に使うアイディアがつまっています。
「ダイニングテーブルを入れるとどうしても狭くなってしまうので、キッチンを少し下げてて作業しやすくし、一方リビングサイドからはテーブルとして食事できる様にしてあります。」
「ここは特に用途を決めていない多目的スペースです。家の中で一番明るい場所なんですよ。お風呂上がりにビールをのんだり、お客さんが来た時には客間になったり、日常は洗濯物を干したり。目的を決めないことで重宝しています。それとちょうど真下、リビングの天井を上げたので、その分ベランダが上がっているんですが、その段差が腰掛けるのにちょうどよくなっています。」
「家は商店街の中にあるのですが、閉鎖的な建物になるのが嫌だったんです。コンクリートにそのまま窓というのではなく、ランドマーク的にみんなが楽しめる建物になればいいなという想いはありますね。
でも図面を書いているときは、これでいいのかなって思っていた部分もあったり(笑)。できてみてこんなに目立つとは思いませんでしたし、予想外です(笑)。」
「まず物理的に、光も風も入るようになるので、より自然が感じられます。また、穴をあけただけですが、コンクリートの重厚な感じがすごく柔らかい雰囲気になりますし、通る人もおもしろがってくれます。ケラケラ笑う子ども達もいれば、かっこい〜と言ってくれる人もいます。反応があるのはうれしいことです。いろんな意味で解放的な建築にできたと思います。」