2014.07.29
「思い出のマーニー」と今
佐世保でまた悲惨な事件が起きてしまいました。ニュース報道の中に「再び」という言葉を聞いたのですが、10年程前の小学校で起きたあの事件も、佐世保だったのですね・・・。地元の方々にとっては、本当に様々な思いがあると思います。このような「心の教育」という課題に向き合いながらも、なかなか思うように成らない現状は、(当然)ひとつの地域だけで解決できる問題では無く、まさに地球上の全ての人類に対する共通のテーマではないかと感じます。最近のニュースで見聞きするように、中東では(相変わらず)大人同士の殺し合いが続いています。現代社会では、子ども達だけでなく、大人達にとっても「心の病」が暗く影を落としているかの様です。その闇を明るく照らす術を、私たち人間は忘れてしまったのでしょうか・・・。
先日、公開中のジブリの新作「思い出のマーニー」を観ました。とても素晴らしかった。ジブリ作品では、昨年の「かぐや姫の物語」で大変な衝撃を受けたのですが、今回はまた別の意味で、深い感動(感慨)を覚えました。多分、観る人によっては、あまり起伏の無いストーリーで「どこが良いの?」という感想が出て来るかもしれません。商業映画として「良い出来か?」と聞かれれば、「ちょっと下手かな」とも。やはり宮崎アニメと比較されれば(総合的には)そのような評価に成る様な気がします。けれども、この映画にはそれを超えるだけの「何か特別な力」を感じたのです。もちろん原作(物語)の力があったとは思いますが、そこに一般的な映画とは(あえて)別の道を行こうとするオリジナルの感性(方向性)が見えたのです。私は、人と違う道を行く人が好きなので。
その「何か特別な力」とは何か。それは「映画を映画として観て、感動したり泣いたりする」という一般的な映画鑑賞の領域を超えた「外側」に、何かもう1つの世界観の存在を感じたのです。私はそれを、ある種の「治癒行為」と呼びたいのです。映画の物語自体が、主人公の(時空を超えた)内面への旅であり、自分自身の心の治癒へと向かって行くのですが、同時に(観ている)私たち自身の内的な治癒をも起こしているかのような感覚に陥ったのです。これは錯覚だったのでしょうか・・・。それを確かめる為に、また観てみたいと思う程です。この物語は、北海道の湿地にある古いお屋敷が舞台ですが、やはり「家」という存在(場)は、人間の心、内面、精神の成長に大きな影響を及ぼしていることが分かります。良き思い出も、嫌な思い出も、「場」に宿ります。今回の佐世保の事件では、加害者である高校一年生の少女は(親とは別に)マンションで一人暮らしをしていたそうです。そこが事件の現場にも成りました。彼女にとって、その部屋(場)は、一体どのような「心象風景」だったのでしょうか・・・。
「心の治癒」とは、もしかしたら今の全ての人々にとって大切なことなのかも知れません。自分でも知らない内に、(勝手に)自分自身を傷つけているのかもしれません。今回の佐世保の事件は、極めて特殊な例かも知れませんが、私たちも、自分自身の内面に在る「心象風景」を意識して見ることが大切でしょう。それが喜びで満たされているのか、あるいは孤独の叫び声を上げているのか。「思い出のマーニー」は、映画としての評価は分かれると思いますが、自分自身の心の奥底に眠っている「心象風景」を思い出す為に、観てみるのも面白いかと思います。もしそこで「何か」を感じ、「何か」を思い出したら、きっと「外側」と「内側」とがつながり、「無色の世界」が「カラーの世界」に一変するかも知れません。「心の教育」「心の治癒」とは、(結局のところ)一人ひとりが「自力」で、自分自身の内面へ向かって旅に出る以外、道は無いのでしょう。そこで、自分自身の良心の声を聞く以外・・・。そして(自分自身の)小さな光が、(みんなの光と)束と成って、この世界の深い暗闇を明るく照らし始めるのでしょう。今、そのことを思い出しました。
ところで、(どうでも良いことですが)私のジブリ作品のベスト3です。
第1位 かぐや姫の物語
第2位 思い出のマーニー
第3位 千と千尋の神隠し
「思い出のマーニー」が第2位とは自分でも意外です。それにしても、映画の中の「空」と「水面」と「月」の映像がとても美しく、素晴らしかった。まさに心の心象風景でした。この映画の究極のメッセージは、「人を許し、自分自身を愛すること」。美しい空の色彩が、その全てを物語っていた様に思います。